ロゲイニングでは、もちろんCPの位置は歴史性や興味深さで考え抜いた末に配点を決めるのだが、率直なところCPの位置にはあまり工夫はない。一方で、ポイントオリエンテーリングやOMMのストレートのように順番に通過すべきCPが決まっている競技では、どこにCPを置くかは、参加者に問うべき技術を直接コントロールすることになるため、その善し悪しはイベントの質、ひいては参加者の満足を決定する。特にオリエンテーリングでは、コースをどう組むかは、大会の最大の見せ場であり、運営者としても腕のふるい所の一つでもある。
今思えば、オリエンテーリングを初めてたかだか10年の若造だった24歳の時、国際連盟が発行していた「コースプランニング」の書籍に衝撃を受けて、自分でもコース設定理論と実践をまとめたことがあった。その発想は、その後いくつかの大会で実現することができたが、全日本のロングだけは45歳の時まで出場していた関係で、縁がなかった。それが今年、実行委員長の山川氏に誘われた。全日本では年齢別に多くのクラスが用意される。年齢やスキルに応じた数多くのコースを提供しなければならない。全コントロール数の制約もある。トップ選手にとってよいコースを組むだけでなく、全ての参加者にとってよいコースを組むことはかなり骨の折れる仕事でもあるが、やりがいのある仕事でもある。断る選択肢はなかった。
オリエンテーリングのロングやOMMで中心的な課題となっているのはルートチョイス、つまりいくつか想定されるルートから最速のルートを読み取る力である。それは同時にルートプランの作り挙げる力も要求する。特にオリエンテーリングでは、CP間の区間は道のない山野に設定される。道でない場所では尾根線や谷線を利用するか、あるいはコンパスを使って直進するか?地図を走りながら素早く読み取り、自分ができるだけ容易にナビゲーションできるルートにつなぎ上げる。その能力が問われる。オリエンテーリングの場合には、その他にも道などをつなげる易しい区間から、地形上の細かな特徴を読み取らないと進めない難しい区間へのスピードや注意力の切り替えも問われる。実施するテレインで、参加者の能力を最大限に問うコースを作る、そこにコースプランニングのアートがある。
今回、若い競技者と協力してコースプランをする機会も与えられた。彼が作ったコースに僕がコメントを付け、代替区間の提案をする。その提案を彼が咀嚼し、さらに「むしろこうした方がよい」と言ってきて、コースが修正される。そのコラボレーションは手間暇は掛かるが楽しくもあった。オリエンテーリングでは優勝設定タイムをかなり気にしてコースの長さが決定されるが、山有り谷有り、やぶ有りのオリエンテーリングでは、単に距離や登距離だけで決まるわけではない職人芸に近い。最後の最後に迷って一部をカットして短くしたりもした。
「後半疲れたところで、正確なナヴィゲーションを要求された」「ルートを選んでからも、本当に最適なルートか不安を持ちながら走った」など、コースがフルに参加者の能力を問い続けた事をうかがわせるコメントが多く聞かれた。作り上げられたコースからだけでは分からない努力が、ナヴィゲーションスポーツの面白さを支えているのだ。