減少しつづけた大学オリエンテーリング部の部員が2011年ごろから増え始めたという話をかなり前に学生連盟関係者から聞いた。2011年3月に発生した東日本大震災では多くの死傷者が出た。それ以上に、一人一人の人間の弱さ、その中で助け合う人々の姿がクローズアップされた。絆という言葉も流行った。大学のオリエンテーリング部への回帰はその延長線上にある。わかり易いストーリーだったので、単純にそう思っていた。
那須岳の雪崩遭難事故を契機にスポーツ庁で編集した、高等学校登山指導者用テキスト「安全で楽しい登山を目指して」の編集に携わる機会を得た。その中に、高校登山部の加盟人口や加盟クラブ数の経年変化のグラフがあった。それを見ると、高体連の登山専門部の加盟数は2006年ごろに底を打ち、2008年ごろから回復傾向にある。このことは、2011年の地震とは無関係に若者の登山回帰が始まったことを意味する。2008年ごろに高校に入学した若者たちの多くが2011年に大学に進学する。大学のオリエンテーリング部員が復活傾向にあるのは、それと共通の流れと考えることができそうだ。学校単位で見ると、男子の加盟校数はその後も減り続けているが、女子の加盟校は同じ頃から増えている。一方で、加盟者数の増加は男子の方が著しい。
2008年には「山ガールブーム」と呼ばれる登山回帰が話題になったが、同時に男性若年層でも登山者が増え始めたことが指摘されている。これらを総合すると、2011年の大学オリエンテーリングクラブの参加者増は、こうした大きな流れの一部だと考えた方が良さそうに思える。
登山やオリエンテーリングに回帰した人口の動機づけが同じようなものだとしたら、それはどこにあるのだろう。単なる自然回帰なのかもしれないし、アクティブな活動志向なのかもしれない。あるいは自然はあまり関係なくて、クラブ等への所属欲求の高まりなのかもしれない。
上述のテキストはこの問いにもある程度回答を与えてくれる。自由記述を集約すると「山や登山の魅力」(美しい景色や自然と出会えた,登山が楽しい,クライミング,沢登り,スキーを知ることができた,等が52%と最多を占めるが、「人との交流」(よい友人(同級生,先輩,後輩)や指導者(顧問等)と巡り会えた,登山を通して様々な人と出会うことができた,等)も31%で次いでいる。さらに、「体力や健康の改善」が29%、「精神面での充実や成長」が26%、「知識や技能の習得」は意外と少なくて10%であった。登山に限っていれば、上に挙げた動機づけはいずれもそれぞれに真実であることが分かる。
NHKに勤める知人に話しをしたら、山岳番組の影響ではないかという。確かにこのころウルトラトレイル・ド・モンブランを題材にしたトレランレポートがまだマイナーなスポーツだったわりには人気を博した。高校生の年代に相当する若者がこれらの番組に感化されたことはちょっと考えにくい。番組が原因というよりは、社会の中にあるなんらかの動きが一方でこうした人口増をもたらし、またそれを敏感に感じたマスメディアがそれを番組にしたということかもしれない。
今後も若者のアウトドア活動への志向性がトレンドとして残るのか、波のように引いていくのか、興味あるところではある。