自然災害並の猛暑と言われた最近の夏の高温、いかがお過ごしでしょうか。私自身、毎年7月になると、「絶対シーズンが終わったらエアコンを買ってやる」と思いつつ5年が経ちますが、今でもエアコンのない部屋で寝苦しい夜を送っています。皆さんも、体調を消耗しやすい時期ですので、ご自愛ください。
私たちはこうした状況をすぐ「異常気象」と呼んだりしますが、地質学的視点で見れば、こんなに安定していた時代は希有だったのだそうです。たとえば1万5千年前ごろには、数年から数十年という極めて短い時間で平均気温が3~5度も上昇していた可能性が示唆されています。上がるだけでなく、下がりもしていたらしいのです。現在は全体的には気候は安定した時期ですが、こうした時期は10万年に1回くらいで、その時期が続くのは平均して数千年程度なのに、現代は1万1千年も続いています。これまでの安定さこそ異常気象なのだそうです。
オリエンテーリングが楽しめる微地形が形成され、その上に適度に森が発達し、やぶもそんなにひどくない程度の気候である。そうした、ナヴィゲーションスポーツにとって絶好の環境が形成され、なおかつスポーツとして走ってみようと人類が思える程度の気温の幅に収まっている現代は、奇跡といってよい時代なのかもしれません。せっかく与えられた気候を存分に楽しみましょう!
(2024年7月17日に朝日新聞に掲載された美月湖の年縞の記事を参考にしました)。
※ 前号から以下のイベントを追加、変更しました。
当法人は、ナヴィゲーションスポーツの普及やアウトドアの安全のために、イベント、講習会の開催や大会への技術サポートを行っています。今後は、以下の行事を開催、協力していきます。また、村越が関係する他団体の行事も掲載しました。
以下で紹介する事業のうち、当法人主催事業の「有度山トレイル三昧」、朝霧野外活動センター主催の「初めてのナヴィゲーション」「オリエンテーリングin朝霧」ではお手伝いいただけるスタッフの方を募集しています。
また、お手伝いではなく、運営や指導の勉強をしたい方も実費での参加を歓迎するイベントもあります。お問い合わせください。
[以下3イベントの詳細はいずれも朝霧野外活動センターwebからご確認ください]
多くの人は、小学校レベルの学習では、先生は指導書に書かれていることを「教えている」と思っているかもしれない。私自身も教育学部に身を置くまではそう思ってきました。しかし、教育実習を参観したり、校長となって学校での授業研修に参加すると、子どもの理解と綿密な検討の上に授業というものが成り立っていると同時に、優れた教員は授業ごとに異なる子どもの現れを手がかりに授業を臨機応変に進め、それでいて、時には事前に想定した以上の深い学びに達する様に衝撃を受けました。
更に衝撃を受けたのは、現在、同僚が行っている研究です。数学教育専門のその同僚が率いる研究チームはおそらく15年ほど先になるであろうナショナル・カリキュラムである指導要領の改訂を目指して、教えるべきトピックとしてのリスクに関わる問題と、数学・算数におけるその取り扱い、評価などを研究しているのです。教科書に当然のように取り上げられているトピックも、いつか誰かがこのような莫大な労力を必要とする準備段階を経て学校で教えられているのです。
教える対象も内容も違うアウトドアスキルにこうしたアプローチが100%当てはまるとは思わないものの、ナヴィゲーションの講習でも、受講者の曖昧な考え、時には疑問を解きほぐし、それを学習材料に戻すことで有意義な講習ができることを実感してきました。それは、ナヴィゲーションに対する研究も含めた深い理解があればこそできる講習です。現在、私たちが勧めているナヴィゲーション・インストラクターの養成事業は、関係者の研究から実践に至る真摯な取り組みに支えられています。
ナヴィゲーションとともに、私がスタンダード化を目指している山のスキルにリスクマネジメントがあります。これまで「綿密な計画と準備」や「的確な状況判断」といった抽象的な言葉で理解されてきたリスクマネジメントを、対象であるリスクの性質からスタートし、発生メカニズムの理解に基づくマネジメントの方法に落とし込みたい、これがここ10年ほどの「野望」でした。
当初は、漠然とした構想でしたが、トップクライマーや南極観測の安全管理隊員の面接記録を元にして研究、あるいは多くの登山者を対象とした質問紙研究で、概ねその構成要素が見えてきました。最近私が行うリスクマネジメント講習のベースには、こうした地道な研究の積み重ねと研修を行うことで受講生と対話することによるブラッシュアップがあります。
7月末に国立登山研修所のオンライン講座「リスクマネジメント」を担当する際、偶然にも、三重県高体連を対象にした同趣旨の講座を対面で実施する機会に恵まれました。またその日の夜には登山研のオンライン講座の準備のための予行演習を、仲間内を対象に実施しました。講習の枠組みは、今年4月に大学の農学部に設置されている山岳学位の修士課程でのリスクマネジメントの授業で実施したものですが、3連チャンの研修で一気に整理が進みました。
ベースキャンプまでの莫大なロジスティックスをやり抜き、その後は時には大きなリスクのある岩壁で、一進一退を繰り返しながら、山頂を望むことのできる稜線にようやくたどり着いた気分です。登頂はまだ少し先かもしれませんが、この眺めをより多くの人と共有したいと思うこの頃です。