【M-nop letter+】2024年8月号

【目次】

■ご挨拶■

 自然災害並の猛暑と言われた最近の夏の高温、いかがお過ごしでしょうか。私自身、毎年7月になると、「絶対シーズンが終わったらエアコンを買ってやる」と思いつつ5年が経ちますが、今でもエアコンのない部屋で寝苦しい夜を送っています。皆さんも、体調を消耗しやすい時期ですので、ご自愛ください。

 

 私たちはこうした状況をすぐ「異常気象」と呼んだりしますが、地質学的視点で見れば、こんなに安定していた時代は希有だったのだそうです。たとえば1万5千年前ごろには、数年から数十年という極めて短い時間で平均気温が3~5度も上昇していた可能性が示唆されています。上がるだけでなく、下がりもしていたらしいのです。現在は全体的には気候は安定した時期ですが、こうした時期は10万年に1回くらいで、その時期が続くのは平均して数千年程度なのに、現代は1万1千年も続いています。これまでの安定さこそ異常気象なのだそうです。

 

 オリエンテーリングが楽しめる微地形が形成され、その上に適度に森が発達し、やぶもそんなにひどくない程度の気候である。そうした、ナヴィゲーションスポーツにとって絶好の環境が形成され、なおかつスポーツとして走ってみようと人類が思える程度の気温の幅に収まっている現代は、奇跡といってよい時代なのかもしれません。せっかく与えられた気候を存分に楽しみましょう!

 

(2024年7月17日に朝日新聞に掲載された美月湖の年縞の記事を参考にしました)。

■現在・今後の活動■

※ 前号から以下のイベントを追加、変更しました。

当法人は、ナヴィゲーションスポーツの普及やアウトドアの安全のために、イベント、講習会の開催や大会への技術サポートを行っています。今後は、以下の行事を開催、協力していきます。また、村越が関係する他団体の行事も掲載しました。 

 

以下で紹介する事業のうち、当法人主催事業の「有度山トレイル三昧」、朝霧野外活動センター主催の「初めてのナヴィゲーション」「オリエンテーリングin朝霧」ではお手伝いいただけるスタッフの方を募集しています。

 

また、お手伝いではなく、運営や指導の勉強をしたい方も実費での参加を歓迎するイベントもあります。お問い合わせください。

【主催事業】

  • 静岡大学公開講座(共催)初級編(2024年12月8日)
    静岡大学と共催で実施される人気の講座。静岡の里山を歩きながら、読図の基礎を学びます。希望者には、日本オリエンテーリング協会によるナヴィゲーション検定ブロンズレベルを認定します。詳細は決まり次第お知らせします。
     
  • 静岡大学公開講座(共催)中級編(2025年3月8日)
    静岡大学と共催で実施される人気の講座。静岡の里山をハイキング形式で歩きながら、読図の実践力を高めます。希望者は翌日の検定に合格することで、日本オリエンテーリング協会によるナヴィゲーション検定シルバーレベルを認定します。詳細は決まり次第お知らせします。

  • Shin Murakoshi オリエンテーリング・キャリア50周年記念事業 202408new!!
    マウンテンオリエンテーリング
    (埼玉県飯能市等、2024年10月5日・TEAM阿闍梨と共催)
    飯能氏は競技オリエンテーリング黎明期のメッカ。村越も、競技オリエンティアとしての一歩をそこで踏み出した。第一回全日本大会で優勝した七国峠を始め、高麗丘陵、朝日山等村越とオリエンテーリングにとっての思い出の地を巡るマウンテンオリエンテーリング。
    (詳細は、https://www.teamajari.com/event/shinmurakoshi50/241005/)
オリエンテーリング黎明期のテラインである高麗峠を日和田山山頂より望む。鳥居のすぐ左に見えているのが、有名な巾着田。
オリエンテーリング黎明期のテラインである高麗峠を日和田山山頂より望む。鳥居のすぐ左に見えているのが、有名な巾着田。
やはり初期のオリエンテーリングにおいてメッカとも言える多峰主の山頂より天覧山のテラインと飯能市街を眺める。遠くの丘陵地は、加治丘陵、七国峠で、パーマネントコースが設置され、第1回の全日本大会も開催された(七国峠)
やはり初期のオリエンテーリングにおいてメッカとも言える多峰主の山頂より天覧山のテラインと飯能市街を眺める。遠くの丘陵地は、加治丘陵、七国峠で、パーマネントコースが設置され、第1回の全日本大会も開催された(七国峠)
  • 有度山トレイル三昧
    トレイルランニングミニレース(静岡市清水区、2025年1月25日)
    ロゲイニング(静岡市駿河区、2025年1月26日)
    当法人のフラッグシップイベントです!2025大会は清水地区を中心にコース設定予定。交通も至便です。

【他団体による主催(協力・村越の講師参加等)】

  • 国立登山研修所:オンラインセミナー
    コロナ禍からスタートした国立登山研修所のオンラインセミナー、今年は村越がリスクマネジメント1回と読図4回の5回シリーズを担当します。
    すでに第二回のリスクマネジメントの回は終了しました。この後、第三回~六回の4読図シリーズを担当します。村越担当の日程と内容は以下のとおりです。
    【終了】(6月27日の第一回は、北村先生の登山の基本的な考え方(PDCA))でした。)
    【終了】第二回:7月25日 リスクマネジメント:登山安全計画の作り方
    第三回:8月30日 読図「礎」の巻
    第四回:9月27日 読図「画」の巻
    第五回:11月1日 読図「按・識」の巻
    第六回:11月29日 読図「践」の巻
    第三回から第五回はお気づきの方もいると思いますが、宮本武蔵の五輪書を意識しました。礎は基本、画とは計画、事前に何をどう読むか?そして按とは按針の言葉から分かるように、進路を定めること、識とは目印を立てて理解すること、すなわち現在地把握。つくづく漢字とは凄いと思います。漢字を手がかりに、ナヴィゲーションの基礎をしっかりみにつけてください。以下のURLで1ヶ月くらい前から申し込み可能です。
    https://www.jpnsport.go.jp/tozanken/syusai/tabid/158/Default.aspx

[以下3イベントの詳細はいずれも朝霧野外活動センターwebからご確認ください]

https://asagiri.camping.or.jp/

  • はじめてのナヴィゲーション(技術協力)
    (主催:朝霧野外活動センター、2024年9月7~8日)
    親子で地図を使ったナヴィゲーションの挑戦する超人気イベント。昨年は3倍の競争率だったとか。
    ※ お手伝いいただける方を募集しています(交通費補助と薄謝進呈)。
  • オリエンテーリングin朝霧
    (主催:朝霧野外活動センター、2024年11月23~24日)
    10年以上続く、本格的ナヴィゲーションも含むイベント。
    ※ お手伝いいただける方を募集しています(交通費補助と薄謝進呈)。
  • 野外活動指導者養成講習
    (主催:朝霧野外活動センター、2025年2月9~11日)
    名称はややクラシカルですが、前半はナヴィゲーション講習、後半は日本の野外でのリスクマネジメントの中村正雄先生による講習という1度で二度おいしい講習。公共施設ならではの参加費の安さも魅力。

  • ナヴィゲーションフェスタ 202408new!!
    (主催:静岡大学地域スポーツ研究会、11月23日)
    大学の持つスポーツ資源を地域に提供し、豊かな地域作りに貢献する静岡大学の一連の事業に参加します。大学から至近の静岡市立大谷小学校での校内オリエンテーリング、ラビリンスオリエンテーリングを実施。ボランティアスタッフ募集中。
小学校の校庭でラビリンスオリエンテーリングに何度も挑戦する近隣の子ども。
小学校の校庭でラビリンスオリエンテーリングに何度も挑戦する近隣の子ども。
校内オリエンテーリングでガチになる大学生たち。最後には併設の消防車展示のために来ていた消防職員が「出身校ですから」といって、これまたガチに挑戦
校内オリエンテーリングでガチになる大学生たち。最後には併設の消防車展示のために来ていた消防職員が「出身校ですから」といって、これまたガチに挑戦

■最近の活動から■

【リスクとそのマネジメントを伝える】

 多くの人は、小学校レベルの学習では、先生は指導書に書かれていることを「教えている」と思っているかもしれない。私自身も教育学部に身を置くまではそう思ってきました。しかし、教育実習を参観したり、校長となって学校での授業研修に参加すると、子どもの理解と綿密な検討の上に授業というものが成り立っていると同時に、優れた教員は授業ごとに異なる子どもの現れを手がかりに授業を臨機応変に進め、それでいて、時には事前に想定した以上の深い学びに達する様に衝撃を受けました。

 

 更に衝撃を受けたのは、現在、同僚が行っている研究です。数学教育専門のその同僚が率いる研究チームはおそらく15年ほど先になるであろうナショナル・カリキュラムである指導要領の改訂を目指して、教えるべきトピックとしてのリスクに関わる問題と、数学・算数におけるその取り扱い、評価などを研究しているのです。教科書に当然のように取り上げられているトピックも、いつか誰かがこのような莫大な労力を必要とする準備段階を経て学校で教えられているのです。

 

 教える対象も内容も違うアウトドアスキルにこうしたアプローチが100%当てはまるとは思わないものの、ナヴィゲーションの講習でも、受講者の曖昧な考え、時には疑問を解きほぐし、それを学習材料に戻すことで有意義な講習ができることを実感してきました。それは、ナヴィゲーションに対する研究も含めた深い理解があればこそできる講習です。現在、私たちが勧めているナヴィゲーション・インストラクターの養成事業は、関係者の研究から実践に至る真摯な取り組みに支えられています。

 

 ナヴィゲーションとともに、私がスタンダード化を目指している山のスキルにリスクマネジメントがあります。これまで「綿密な計画と準備」や「的確な状況判断」といった抽象的な言葉で理解されてきたリスクマネジメントを、対象であるリスクの性質からスタートし、発生メカニズムの理解に基づくマネジメントの方法に落とし込みたい、これがここ10年ほどの「野望」でした。

 

 当初は、漠然とした構想でしたが、トップクライマーや南極観測の安全管理隊員の面接記録を元にして研究、あるいは多くの登山者を対象とした質問紙研究で、概ねその構成要素が見えてきました。最近私が行うリスクマネジメント講習のベースには、こうした地道な研究の積み重ねと研修を行うことで受講生と対話することによるブラッシュアップがあります。

 

 7月末に国立登山研修所のオンライン講座「リスクマネジメント」を担当する際、偶然にも、三重県高体連を対象にした同趣旨の講座を対面で実施する機会に恵まれました。またその日の夜には登山研のオンライン講座の準備のための予行演習を、仲間内を対象に実施しました。講習の枠組みは、今年4月に大学の農学部に設置されている山岳学位の修士課程でのリスクマネジメントの授業で実施したものですが、3連チャンの研修で一気に整理が進みました。

 

 ベースキャンプまでの莫大なロジスティックスをやり抜き、その後は時には大きなリスクのある岩壁で、一進一退を繰り返しながら、山頂を望むことのできる稜線にようやくたどり着いた気分です。登頂はまだ少し先かもしれませんが、この眺めをより多くの人と共有したいと思うこの頃です。

ナヴィゲーションの指導法も地道な基礎研究や実践研修の積み重ねによって生まれた。リスクにどう対応するかは標準化しにくいソフトスキルの極みであり、それをスタンダード化する意義は大きい。
ナヴィゲーションの指導法も地道な基礎研究や実践研修の積み重ねによって生まれた。リスクにどう対応するかは標準化しにくいソフトスキルの極みであり、それをスタンダード化する意義は大きい。
この4つのステップで自然の中でのリスクマネジメントは標準化できるのではないだろうか?その模索は今後も続く
この4つのステップで自然の中でのリスクマネジメントは標準化できるのではないだろうか?その模索は今後も続く

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

活動をサポートして下さる方を募集しています

2015年3月のシンポジウムのプログラムと村越の発表資料を掲載しております。

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