4年生になると社会科で地図学習が行われる。地図自体も学習の対象で、様々な学年の学習内容に地図を活用することが指導要領でも謳われている。特に学区の探検では、地図の縮尺も手ごろなので、地図が使われやすい。私が勤務する学校では、毎年この時期になると、街の中心部にある城跡の周囲を含めた学校区の探検に出かけ、それを地図化する授業をやっている。先日、ある教室の授業を参観する機会があった。学校は城跡の東に位置し、教室は城跡の方(つまりは西)を向いている。授業が始まる前に先生はわざと地図をノースアップで黒板に貼った。
自由主義的な教育の本校では、子どもはちょっとした意見もすぐ口にする。誰かが、「先生、地図の向きが違う」と言った。賛同する子どももいる。「それだと(北となりにある)附属中学校がこっちなのに、こっちになっている」というのだ。子どもだから、なかなか的確にいいたいことを言葉にできない。ところが、中にはそれでいい、という子もいる。「地図は北が上じゃなきゃだめ」というのだ。地図は通常北を上にして使う、ということをどこかで習ったか聞いたのだろう。それはそれで理にかなっている。先生がこれらの発言を取り上げ、最初に貼ったままがいいのか、それとも、横にした方がいいのかと問いかける。僕が見ていた子は、隣の机の子と地図を逆向きにして比較しているが、見るべき焦点が絞れていないので、うまく結論がでない。自分の周りで実際の目標物の関係がどうなっているか、それが地図ではどうなっているかを一々意識しないと、問いへの結論はでないだろう。子どもには特に後者の作業が難しいようだが、自分より小さな地図の中で、位置関係を読み取るのは、大人でも意外と難しいのかもしれない。読図の講習では普段何気なく、「地図上の目標を実際の方向に合わせてね」、というが、地図読みが苦手な人にはもう少し丁寧にその作業のポイントを伝えるべきなのだろう。
この授業の大きな狙いは、わかりやすい/使いやすい地図とは何か、だった。地図の向きはその中でも利用者が介入できる数少ないポイントだ。しかも日常の見かける街の地図の良し悪しを考えるポイントにもなり得る。もう少し時間があれば、地図の向きという視点から「わかりやすさ」とは何かについて掘り下げ、子どもたち自身の周りにある地図についても考えるきっかけを提供できただろう。現実の学校の授業ではそれを掘り下げる時間がなかなか確保できないのだ。