研究上の必要性から、過去5年ほどの山と渓谷のリスクマネジメントや遭難の特集をレビューした。だいたい年に一回は読図や遭難リスク特集か企画記事が掲載され、2年に一回くらい、大きなリスクマネジメントや遭難特集が組まれる。最近では、2014年3月号が「遭難を起こさない『心技体』」だった。
以下に紹介する特集は読図に偏っているが、平塚晶人さんの読図記事は、一貫性と実用性という両面で、光っている。
①2009.11(No.895) カンタン読図の道迷い防止術
丹沢で地図読み初心者と一緒に登りながら、行動と思考を実地検証した記事。ここでは初心者が陥りやすい道迷いのトラブルを実地検証しているが、
登山道が岩やザレのなかを通ると、とたんにその踏み跡を追えなくなるとか、石が靴にこすられて白く変色したところがルートであるという認識がないといった、読図をナヴィゲーションに生かす上で環境への注意が欠かせないこと、その背後には環境に関する知識が必要なことが明確に示されて
いる。平塚さんは、これを「道の意図を察知し、勘を働かせる」と、分かりやすく表現している。またこうした課題に対応した、「カンタン読図」のポイントが示されている。
②2008.2(No.873) 山のリスクマネジメント
もう6年前の発行になるが、これは山で出会うリスクに関する包括的なよい特集号である。遭難の中身など経年的に変わらないから、現在でも十分通用する。充実させてムックにすればいいのに。
ここでも、平塚さんは、「メリハリの効いた読図」という表現で、的を絞った読図の重要性を指摘している。彼自身は言語化していないが、リスクの特定、リスクの評価に基づくマネジメント、という一貫した視点が見られる。リスクマネジメントの発想を生かした道迷い防止の方法論である。
雑誌記事にはしばしば遭難事例が出てくる。道迷いでは、「遭難3日目になって初めてコンパスで方向を確認した」など、唖然とする記述がある。あくまでも事例だし、だからこそ大遭難をするのだろうが、コンパスをいつどう使うかは、ナヴィゲーションスキルの重要なポイントなのに、意外と正しい知識が流布していないことが分かる。