「地図くらい読めないふりしてあげよう。」最新号のan-anの広告ポスターのキャッチコピーである。このコピーに対応する記事がどこかにあるのかと思い、本屋の女性誌コーナーで恥ずかしい思いをしながら隅から隅まで読んだ。記事は発見できなかったが、この雑誌が、自分をかわいく見せることが主眼の一つである女性誌であることは分かった。
このコピーが秀逸なのは、「地図が読めないのは女の子っぽくてかわいい」というステレオタイプと、その裏に「でも、本当は読めるんだ」という肉食女子系のイメージが綺麗にマージされている点だ。
実際、心理学の研究でも、自己評価の質問紙では方向感覚の男女差がきれいに出るのに、実際に地図を読ませたり、ナヴィゲーションをさせたりすると、結果は一貫しない。僕が最近手がけている登山者のデータでは客観テスト、自己評価ともにほとんど差が見られない。差が見られたのは「地形のイメージ」「可視判断」(地形図中の2点間が互いに見えるかどうか)、そして「コンパスの利用」の3項目(全10項目
中)である。これらはいずれも過去の研究でも指摘されている「視点の変換」を伴う項目である。それより高次で実践的な「ナヴィゲーションの読図」では差は見られなかった。本当は差がないのだが、女性は社会的環境の直接の影響か、それに無意識に影響されて、方向感覚やナヴィゲーションに関する自己概念が低くなっている可能性があるということだ。逆に、僕の被験者が、いずれも登山者で、かつ自主的に研修会・講習会に参加した人だという点も影響しているだろう。
女性の唯一の弱点である「視点の変換」は、確かに等高線から地形をイメージしたりするのに欠かせない。しかし、実際に山の中で現在地を把握したり、ルートを維持するのに、立体的なイメージは必要ない。尾根・谷が分かれば十分だし、それは等高線の平面形状から十分把握可能である。「ナヴィゲーションの読図」に差がないこともそれを証明している。
あなたの近くの「地図の読めない女」も「読めないふり」をしているのかもしれない。