勤務校の自然体験の中で、ウォークラリー形式のハイキングをやることになっている。職員の最初の説明会の時に出された地図は、ルートがデフォル メした線で描かれているだけのイラストマップのような地図だった。精度の低い地図で活動が行われることは学校教育の中では希ではないし、それが即 リスクの増大につながる訳ではない。2回目の詳細な説明会ではちゃんとした地図が出てくるのだろうと考えた。ところが二回目の説明会でも出てきた のはイラストマップのみ。「これ、(安全管理をする)教員も同じ地図を使うのですか?」と聞くと、そうだという。さすがにそれは立場上首肯できな い。地形図にルートを書き込んだ地図を調製して教員には提供することにした。それで変化するリスクは人間の活動の中では無視できるものかもしれな い。しかし、社会科の授業では地図も扱うし、等高線もその内容に含まれている?日常生活ではそれを使う機会はないが、自然体験はそれを実際に使っ てみるよい機会なはず。確かに小学生の子どもの多くにはそれを読みこなすことは難しいだろうが、それでも可能なことはあるだろう。何より自ら地図 を読み取ることは、学校の教育目標とも一致する。もともと地図に対する教育は社会科の中でも体系的に行われているとは言い難いのだから、こんな ちょっとしたきっかけでも、地図に目覚める子どもが生まれれば、この世界を牽引する人材として育つかもしれない。
日本山岳協会遭難対策委員会での講演の時、勤務校の実態を話し、「しかし、それって学校教育全体の問題であり、ひいては国民の安全登山の大きな バリアですよね」的な発言をしたら、後日その問題提起で遭難対策委員の間でメールでの議論が沸騰したということを、ある委員の方が教えてくれた。 おそらく登山界だって、そこに問題意識を持っているのだと思う。だが、「地形図を使うべき」という議論だけでは、忙しい学校教育の先生は対応する ことができないだろう。地図をどうやって手に入れ、どのように加工するかのノウハウが必要だ。何より、その地図を使って子どもたちにどのような活 動が可能になるかを具体的に示さないと学校での地形図の利用は普及しないだろう。
僕が授業をするとすれば、いくつかの段階を踏む。実際に地図を使ってナヴィゲーションをすることは大人でも難しいので、まずはオンサイトのナ ヴィゲーション利用はあきらめる。地図から、自分が歩くべき道のりがどれくらいか、高低差がどれくらいかを把握させる。これは算数の勉強にもなる だろう。記号から、注意すべき場所を読み取るという活動も、小学校高学年ならある程度はできる。これらの課題を完全に解くことはできなくても、地 図からルートの特徴を読むことで、より主体的に活動に取り組み、また自らの安全を意識する事前準備ができるのではないだろうか。