前回のコラムで触れた本で、ハイテクシステムのナヴィゲーションとして、カーナヴィゲーションを扱っている。2003年にはほぼ十分なレベルで実用化されたカーナヴィゲーションは、その後は、センサーを使った測位精度の向上、ルート検索の効率化、そしてガイダンス機能を充実させる方向で少しづつバージョンアップしていった。
ガイダンス機能とは、音声や画面で進むべきルートを示す機能だ。これが意外と難しい。交差点の形状を正しく伝えたり、適切なタイミングでそれを伝える際、適切なタイミングは、運転手のくせによって異なる。交差点の形状も直交の十字路ばかりでなく、場所によっては変形交差点があったり、中には右斜め前だけでも二つも道がある交差点もあるからだ。当時も、交差点の拡大表示や、鳥瞰図風の表示などで、ガイダンス機能をわかりやすくする工夫が見られたが、最近ではAR(拡張現実)による表示がカーナヴィゲーションや人ナヴィゲーションでも見られる。車の正面方向の画像をカメラで取得し、リアルタイムでその画像に進むべき方向を→で乗せるのが、カーナヴィゲーションにおける拡張現実の活用法の一つだ。ディスプレイに、実際と同じ風景が写され、それに矢印が載っているのだから、間違いようがない。邪魔者である地図(コラムno.89参照)を飼い慣らす工夫の一つと言える。
3月の最週末、奥武蔵ロゲイニングに出場した。一人でパトロールをする予定だったところが、「婚活に失敗」してパートナーが見つからなかったO嬢と一緒に回ることになった。ロゲイニング経験の多い彼女だが、ナヴィゲーションはまだまだ。前半は「ナヴィゲーション道場」を実施。スタートからしばらくは、丘陵を開いて作った造成地の、まだ家も建っていないエリアを走って、造成地の脇にある山にはいっていくというポイントの連続だっ た。
彼女にナヴィゲーションの練習をさせながら、時々アドバイスする。「ほら、ずっと向こうに山が見えるでしょ。ここからなら、あれがこのCPのある山だって簡単に分かる。そうしたら、その景色を覚えて、『あそこにいく』って思うの。景色の中で進むべき方向を決めておけば針路を見失いそうになっても、景色を頼りに進める。地図で読み取ったことはできるだけ景色に落とし込んでおくんだよ。」
私たちナヴィゲーターは、地図を飼い慣らすために拡張現実をずっと昔から使っていたのだ。そうだ、ミクロネシアのスターコンパスも、特定の島への進行方向を星の昇る/沈む方向に対応させた、一種の拡張現実なんじゃないか!