昨年の日本心理学会の講演で、東北大の川島隆太先生が、「私は(研究で使っている)高磁場のfMRIを買うのに、皆様の税金は一銭も使っておりません」と胸を張っていた。任天堂のDS「大人の脳トレ」のロイヤリティーでまかなったということなのだ。ということは私も何億分の一かは貢献したということだ。
それほどまでに大人の脳トレが売れたのにはいくつかの理由が考えられる。高齢化社会で誰もが老化による脳の機能の低下への漠然とした不安を持ったこと、その低下を防ぐ簡単なトレーニングを提供したこと、そのことが科学的根拠を持って示されていること(これについては異論もある)等にある。加齢による脳の萎縮は特に前頭葉や海馬を中心を起こる。記憶力の低下は明らかにこうした脳の変化と関係がありそうだ。
最近、日本認知心理学会のシンポジウムで登山の効用の話しを頼まれ改めて調べてみると、ここ10年のうちに持久的運動によって脳の神経細胞の新生が促進されることや、それによって脳容積の増大が見られること、また認知機能の低下を抑制できるという研究成果が数多く出されていた。これらの多くは高齢者を対象としたものなので、運動すれば加齢に伴う知的能力の低下を抑制できるというのが適切なところだろう。
一方で、2000年前後にロンドンのタクシードライバーの海馬が、同等のタクシードライバー以外の人たちと比較して大きいことが神経生理学的な研究によって示された。ロンドンは非常に複雑な町で、タクシードライバーになるために厳しいテストを受けるという。海馬には空間記憶に関連した神経細胞があるし、神経細胞は実は大人になっても新生する。複雑な街の中を間違えずに移動するための空間情報処理が、海馬における神経新生をもたらし容量の増大につながったということなのだろう。
こうした最近の脳科学の成果を見てみると、地図を使って自然の中を一定時間以上動くオリエンテーリングやロゲイニングこそ、高齢化社会にうってつけの活動なんじゃないだろうか。ナヴィゲーションスポーツは空間的な判断が要求される上に、ルートのプランニングやチョイスといった判断も要求される。これはおそらく前頭葉も使っていることだろう。そういえば、いつかのヤマケイに地図を使う時に脳が活性化するという研究結果が出ていた。
「ナヴィゲーション・スポーツで脳も体も健康に!」