ここ3カ月の間に、期せずして3つの依頼を受けた。そのいずれもが、山岳地域で活動するプロフェッショナルに対するナヴィゲーションスキルの提供に関するものであった。6月には、静岡市消防に、山岳救助隊のためのナヴィゲーションスキルの講習を行った。静岡県では、昨年、山岳遭難人数がほぼ倍増した(一部特異な事故もあるが)。そのこともあってか、南アルプスをかかえる静岡市では、今年から山岳救助隊が正式に発足した。その隊員を含めた100名を越える消防隊員が(自主受講も含めて)受講し、関心の高さを感じさせた。
7月には国際山岳認定医のための講習会を立山で行った。ヨーロッパの山岳国では、山岳遭難の現場に赴き、いち早く医療活動に当たることで遭難者の生命を助ける山岳認定医という制度がある。過酷な自然環境に出ても救助隊の足手まといにならずに自律的に活動できる医者の養成が目的である。彼らのスキルにナヴィゲーションは直接関係ないが、場合によっては救助者の搬送を優先する救助隊に置き去りにされることもあるだろうし、場所の地図を見て現地の様子が分かれば、それだけ的確な準備も可能になる。研修は10日以上の宿泊研修を含むハードなもので、来年の春には日本初の山岳認定医が誕生する。
もうひとつの依頼は、山岳ガイドに関するものだった。昨年のトムラウシの事故以来、山岳ガイドの資質に対する世間の目は厳しい。彼らが持つべきスキルの標準化を進めようというのが、山岳ガイド協会の考えのようだ。その中には当然ナヴィゲーションスキルも含まれている。私の実感でも優秀なガイドでもナヴィゲーションスキルに対してはやや甘さがみられる(彼らは道に迷ってもびくともしない生活技術を持っていることが、ここではマイナスに働いている)。彼らが地図読みをはじめとするナヴィゲーションスキルを的確に持つことは、登山界全体にも大きな影響力があろう。
ナヴィゲーションが山岳のプロフェッショナルの間でのスタンダードスキルになることは好ましい。彼らの仕事に対してより高い貢献ができるナヴィゲーションのスタンダードづくりは、私たちの責務であろう。