コラム74 現在地が分からない

風水害や地震、火山爆発に備えたハザードマップが各地で作られている。火山情報については「風評被害につながる」として反対されてきた時期もあるが、潜在的な危険に関する情報が、一般市民にも提供されるようになったことは、防災上も望ましい。

 

だが、地図を配ればそれが市民の防災力に直結するだろうか。地図の教育や地図作成に携わっている身からすれば、通常の地図でも理解や利用は難しい。まして、ハザードマップのように予測的・集約的表現の理解が一般市民にトレーニングなしにできるとは思えない。私自身、そういう疑問からハザードマップの読み取りに関する研究を積み重ねてきたが、最近でた日本国際地図学会の学会誌「地図」にも、ハザードマップの読み取りに関する研究成果が報告されていた(高井、2009)。

 

この研究では、防災のワークショップに参加した市民34名を対象に、名古屋市で発行している地震ハザードマップから、自宅を読みとる課題を与えた。ハザードマップの基図は都市計画図なので、建物一つ一つを同定することが可能であるが、制限時間で正解(70m以内とされている)したのは、約8割であり、6名が間違えていた。間違いの多くは似たような道路形状の近くの場所だと誤同定したものであり、周囲の公共施設などのランドマークがないと起こりやすい。このような誤同定のパターンは、屋外での現在地把握実験の結果と似ている。似た場所の候補から一つの正解を絞り込む検証プロセスは、地図上だけでの現在地把握でも重要なようだ。

 

アウトドアでも現在地把握の失敗は遭難につながる危険性のあるミスだが、ハザードマップにおいても、避難の失敗につながる可能性もある。防災力やリスクマネージメントという視点でも、地図を読む力の教育は不可欠だ。

 

参考文献:高井寿文 (2009) ハザードマップ基図の読図と地図表現との関わり 地図,47(3),1-7.

NPO法人Map, Navigation and Orienteering Promotion

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