7月上旬に、恒例の山岳遭難の概況が警察庁から発表された。今年も「過去最悪」。125人増加の、1933人だ。2000人の大台に乗るのも時間の問題だ、というよりも、このままなら間違いなく来年は2000人台だろう。6-7月にはニュースになった遭難が相次いだし、静岡では3月下旬に39人の遭難騒ぎもあったから。道迷いの増加数は全体の増加数を超える141名。とうとう道迷い比率は40%近くまであがり、これも過去最高比率。山と渓谷誌では、11月号で、緊急特集を組むそうだ。
現状分析の原稿を依頼されたが、前のコラムでも触れたように、一昨年のデータを原データに戻って分析した僕からすれば、「ちょっと待てよ」というところだ。本当に登山の道迷いが増えているのだろうかという疑問がわく。公表された概況をよく見ると、遭難数の伸びは6.9%だが、登山の遭難数の伸びは3.2%に留まっている。その変わり山菜採りの遭難数の伸びは15.8%だ。山菜採りの遭難に占める道迷いの比率は登山のそれを遙かに上回るので、道迷い遭難の大きな伸びはひょっとすると山菜採りの遭難数の増加に影響を受けているかもしれない。同様に、中高年の比率も81.1%と過去最高レベルではあるが、ここにも山菜採り遭難の影響があるかもしれない。イメージ的にも山菜採りには若い人よりも中高年が多いと思われるが、実際にもそうだ。なんと山菜採りの場合、中高年比率は98%を越える。山菜採りの遭難が増え、それが一方で中高年の比率を上げ、他方で道迷いの比率を上げているというのは十分考えられる話だ。元々、中高年の登山人口は多い。レジャー白書のアンケート調査を元にすると、登山人口の中に占める中高年の割合は77%程度になるのだが、本州中央部の登山目的に限ると、多い多いと言われている中高年の遭難数は、中高年の登山者人口から予測される割合から統計的に差があるほど多くはない。60歳以上の高齢者では、それどころか、統計的に差があるほど少ない。つまりは中高年の遭難が多いと言っても、登山者が多いからであって、リスクという意味では、むしろ若い層の方が多かったりする。実際道迷いの比率は中高年よりむしろ20-30歳代で多い。
そんなことを思い出しつつ、安易に「道迷い遭難多発!」「中高年の安易な登山が原因か?」と短絡的な思考に陥いることに釘を刺す記事とした。