コラム70 女は地図が読めないか?

昨年登山研修所の研修会で、山野でのナヴィゲーションに関する18項目からなる質問紙と地形図を使った客観的テストの調査をさせてもらった。質問紙をを統計的手法でまとめると、「地図・コンパスの携帯」「地図の基礎知識」「ナヴィゲーションスキル」「コンパスの利用」「道迷い」という、妥当性が高いと思われるカテゴリが得られる。自己評価の得点もこの順に下がる。つまりは携帯はしていても地図のことを知らず、ナヴィゲーションに使えるかとなるとさらに肯定的な回答は減り、コンパスはもっと使えないということだ。かなり実感に近い結果だった。

 

驚いたことに男女差はなかった。全体をまとめるとあるのだが、男女は経験年数の分布が違う。経験年数0年、1年、2,3年、いずれの群についても男女差が見られない。この手の質問紙では男女差が出て当たり前という先入観に囚われていた。さらに粘って、経験年数で分けて客観テストの成績を分析したら、こちらにも差がなかった。空間認知関係の研究では、質問紙では差があるが、客観テストでは一貫した結果が得られないというのが一般的な知見だが、客観テストでも自己評価でも差がないのは驚きだった。

 

次に経験年数によってスキルがどのように変化するかを見た。自己評価は驚くほど綺麗にでた。利用暦0年では、全てのカテゴリにおいてスキルが低いが、「地図・コンパスの携帯」「地図の基礎知識」「ナヴィゲーションスキル」「コンパスの利用」の順だった。経験年数が1年になると全体的に向上が見られるが、特にコンパスの利用についての得点が上がる。さらに経験年数が2,3年になると、「地図の基礎知識」がぐっとあがり、地図・コンパスの携帯と遜色なくなり、頭打ちとなる。それが4年以上になると、向上は「ナヴィゲーションスキル」に及ぶ。しかし、ナヴィゲーションスキルもコンパスも4年以上になっても、地図の基礎知識のレベルまでは上がらない。地図やコンパスを実践的に使うという点では、現在の環境下では経験だけではなかなか進歩しないようだ。似たようなパタンは客観テストにも得られており、比較的単純なスキルだと思われる高低判断、尾根・谷の識別には差がなかったが、尾根線/谷線識別という少しレベルアップした課題では差があった。ただしその差は0年とそれ以上の間にあって、それ以後にはない。一方、もっとも実践的だと思われる地図と風景課題は得点が低く、また経験年数のよって向上もしない。ほぼ自己評価と対応した結果となった。

 

もちろん、これは一般的にそうしたスキルを要求されない山行のスタイルが圧倒的に多いことと無縁ではないのだろう。しかし、このことは同時に、ひとたび「現在地の把握」を問われたり、進路の維持の努力が必要な状況になると、彼らが容易に窮地に陥ることは想像に難くない。

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 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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