コラム64 ゆらぐ

裁判員制度の導入に伴って、一般の人の裁判への関心が高まっている。本屋に行っても、裁判関係の「どじょう本」がたくさん出ていた。学校事故関係の裁判の記録を見ていて思ったことだが、裁判というのは決して法律によって杓子定規に決定される世界ではない。その場の具体的な状況の一つ一つによって状況の解釈が変わり、それによって同じ罪状の事故でも判決は少しづつ揺らぐ。判決の元になる法律はいわばデジタルの世界である。しかしそれが裁こうとしている実世界はアナログである。単純な話ではどこに無罪と有罪の線を引くか、どこに執行猶予の線を引いたり、過失相殺の割合をどの程度に認定するか、デジタル的な基準はあっても、そこには必ず解釈の余地が生まれる。だからこそ、市民が関わって多様な解釈の可能性を開くことに意味があるのだろう。

 

デジタル的な基準でアナログ的な世界を切り分ける、だからこそ揺らぎが生まれる。それに対処するために柔軟な視点が必要となる。同じことは地図を使う場面にも言える。地図記号はデジタル的でわかりやすい。地図がわかりにくい・難しいと思われるのは、実は地図自体ではなく、地図をアナログ的な現実と対応させる場面にある。法律の世界もきっとそうなのだろう。

 

僕が所属した大学のオリエンテーリングクラブは100名を越す大所帯だったが、その中でもっとも多かったのは工学系の学生だった。これはなんとなく分かるような気がした。ナヴィゲーションは原理的な行動をとることで確実性が増す。しかし、移動する実世界はその原理がそのまま適用できないことも多い。それに対応する柔軟な視点の切り替えが必要だ。工学が要求するそういう資質を持った学生たちがオリエンテーリングに惹かれたのも、そんな共通性からではなかったか。

 

その次に多かったのが法律系の学生だった。当時は不思議に思っていたが、地図記号の性質と法律の性質を知った今は、それが必然だったのではないかと思う。デジタルな基準でアナログの世界を切り分けていく。そんなナヴィゲーションの地図読みが、法律系の学生にマッチしたのではないだろうか。

 

裁判員制度が普及することで、ナヴィゲーションへの関心が高まる。そんな妄想が頭をもたげた。

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 オリエンテーリング世界選手権の日本代表経験者、アウトドア関係者らが、アウトドア活動に欠かせない地図・ナヴィゲーション技術の普及、アウトドアの安全のために設立したNPO法人です。

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