6月25日、静岡気象台で行われた牛山素行さんの講演を聴いてきた。彼は豪雨災害被害を専門とする研究者である。ちょったした地震が起きると大ニュースになる。しかし、その多くは死者は数人というものである。ところが日本では、毎年数十人という人が豪雨災害でなくなっている。そんな社会的アンバランスも、彼を研究に駆り立てる大きな要因らしい。
今回の講演で一番興味深く、また示唆に富んでいたのが、豪雨災害による死者の分析である。2005-2007の3年間の豪雨災害の死者は95名。そのうち溺死が35ほどをしめるが、実は洪水によって流されて死んだのはその1/3程度であり、残り23人は、「田圃を見回りにいって」「増水の様子を見て外に出て」といった、いわばアクティブな被害にあった人だという。また土砂災害では、高齢者等の要援助者が死亡するケースが数件あるが、全体からみたらその数は決して多くないといった、事実の詳細な検討に基づく興味深い話が続いた。
私も今、来週の全国山岳遭難対策協議会での講演に向けて、道迷いの事例を分析しているが、残念なことに警察庁が発表する資料は単純集計の数値だけであって、その経緯はほとんどわからない。登山者遭難の実数も、道迷いの総数もわかるが、登山者の中で道迷いで遭難した人が何名であるとか、そのうちどのくらいのけがをしたのかといった基礎的資料が全く得られない。さらに困ったことに、最終的には原因(実際には態様と呼ぶ)が「滑落」であっても、相当数の事故の発端が道迷いにあるらしいというのが登山関係者の実感であったが、その裏付けとなる資料も得られなかった。データがなければ、的を射た対策を立てることができない。これは豪雨災害も山岳遭難も全く同じである。
えーい、仕方ない。各警察本部に直接電話して、資料提供をお願いすることにした。情報公開条例等で拒否されたところもあるが、多くは協力的であった。しかし、それらの半数程度は単純集計であり、やはり上記の分析には向かない資料だった。結局、全国遭難の約1.5割程度の事例が集まりそれで分析をすることにした。サンプリングに偏りはあるが、「道迷い」と分類されていない遭難中にも道迷い数の10%強の道迷いからみの遭難があることなどがわかった。
この資料については講演終了後、何らかの形で公表する予定である。