火山学者の同僚と、ハザードマップ(火山防災マップ)を使った読み取り実験をこの数年続けている。彼はハザードマップを作った立場から、「これが本当に市民に使えるものになっているのだろうか」という疑問も持っていたし、僕もその相談をされた時、ただの地図ですらうまく読めない大人が多いのだから、ハザードマップのように複雑な地図が、教育なしに読めるとは思えないと思った。では具体的にどんな点が読み取れないのか、またどうすればいいのかという研究上の疑問を持って、共同研究に取り組み始めた。
先週行なったのは、高校生を対象にした実験だった。課題では、ハザードマップを見せて、「富士山噴火の緊急火山情報ができた時どうしたらいいか」を考え、なおかつ避難するとしたらどんな経路で避難するかを1:25000に描き込む課題であった。与えられたハザードマップは概ね縮尺1:70000くらいだから、異なる縮尺の地図の対応が要求される。異なる地図を対応させる課題は、小学校の社会科でも非常に通過率の低い課題である。実験条件としては、ハザードマップの読み取りについて、ある程度解説をした群といきなりハザードマップを与える群で、上記課題の出来を比較した。
ハザードマップからの対策立案の課題はこれまでにも何度か実施していたが、1:25000に避難経路を書かせる課題は今回が初めてだった。難しいとは予想していたが、思った以上に難問だったことが実際にも示された。まず、住所と想定されている場所を探すのが難しかった。地図を使いなれた僕らからみれば、スケールは違っても特徴的な道の形を対応させれば、ほぼ場所は分かるはずだ。通い慣れている彼らの学校の位置さえ読み取れない生徒もいたそうだ。
行政はアリバイ的にハザードマップを全戸に配布している。だが、まずその特徴的な表現を一般市民はうまく読み取り、生かすことができない(これはこれまでの実験でも検証済み)。また、実際に逃げるとなった時、ハザードマップの情報だけでは避難ルートは計画できないので、より大縮尺の地図を援用する必要があるが、それもおぼつかない。マップの配布という点では進みつつある防災対策であるが、地図利用という視点から見た時、大きな課題が残されていることを感じた。