前回に続いて、文部科学省登山研修所の専門調査委員会の話をしたい。
同委員には今年初めて就任したこと、本年度2回ほど講師を務めた関係で、出席した。行政の開催する委員会には過去何回も出席しているが、事前に用意された資料がそのまま承認されるパタンが多く、正直面白いものではない。今回もあまり期待していなかったのだが、本当に「忌憚なき」意見が出て、結構面白かった。
現在登山研修所は、遭難対策研修として、消防や警察の救助隊関係者を集めての研修を行なっているが、ある委員から、「そういうのはそれぞれの機関が研修をやっているのだから、登山研修所は、現代の遭難の状況にあった、防止面に力点をおいた研修をもっと増やしたらいいのではないか」という意見が出された。研修所側は、この意見に対しては消極的だったが、現在の山岳遭難の多くは、中高年が難しくもない山域・ルートで起こす「軽い」ものである。それらを防止するための啓発活動や教育は、今後の同所の重要な役割となるという意見には納得できる。
毎年7月に共催で行なわれる全国遭難対策協議会でも、商業セクターの参加を促してはどうかという僕の意見に対しても、この委員は賛意を示してくれた。遭難の多くを占める未組織(団体に加盟していない)の登山者にもっとも接点があるのは、出版やアウトドア用具メーカー、ショップである。実際、遭難防止に対する意識を持つメーカーもあるし、出版などでもたいてい年1回は遭難の特集を組んでいる。遭難の防止を考える上でも、商業セクターが果たしうる役割は大きいはずである。
商業セクターを巻き込むことで、現在の「守り・助けてやる」遭難対策から、「登山者自ら防止する」遭難対策へという、真の自己責任への転換ができるのではないだろうか。