十月初旬に六甲山で遭難した兵庫県の登山者がなんと、24日ぶりに発見された。この登山者が一月半ぶりに回復し、退院したニュースが、12月下旬の新聞記事に掲載されていた(朝日新聞12月20日および22日)。
これらの記事によると、発見当時の体温は22度。低体温症以下の体温である。意識はなく、ごく弱い心拍と浅く回数の少ない呼吸が認められていたが、病院到着直後に心肺停止を起こし、救急措置によって蘇生した。人間として考えられないことだが、「冬眠状態にあったのかもしれない」と驚く研究者や救急医療関係者のコメントが紹介されていた。
この登山者は、がけから転落し、骨盤を骨折していたが、その発端は一人で下山しようとして、道に迷ったことらしい。こうした事故は、統計では「転落」として分類されているので、表面には出てこないが、原資料に当たると、意外と道迷い後転落・滑落というケースは少なくない。
私の知る限りでは、道迷い遭難での無事救出例では、18日間というのが日本では最長である。その登山者は、持っていたわさびマヨネーズを食べて飢えをしのぎ、渓流釣りの人に偶然発見されている。「冬眠状態」になったことで、ほとんど食料も飲料もない状態での生存が可能だったのかもしれない。
なお、海外では、遭難後43日目に生還というケースも報告されている。しかも、4000mを越える高地である(シューベルト「続生と死の分岐点」山と渓谷社)。日本人に比べて西欧人の方が皮下脂肪が厚いからなのかもしれない。