香港滞在の時に、友人に登山用具店を紹介してもらった。せっかくなので何か買おうと物色していると、シルバの新しいコンパスを見つけた。従来からあるタイプのリニューアルなので、特別な機能がある訳ではないが、リングの周囲にゴムがついていて、リングを回しやすくなっていた。
それよりも発見だったのは、解説である。これを見て、しばらくの間疑問だったカプセル内の赤い度数目盛りの謎が解けた。また、角度設定の考え方が根本的に変わっていたに気づいた。
この解説書によれば、リング内のノースマークを併せるのは「経線」なのだ!ちょっと前まではリング内のノースマークは磁北に合わせることになっていたはずだ。それだけではもちろん、正しい方向に進むことができない。そこにカプセル内の赤い度数目盛りの出番がある。実はこれは偏差修正目盛りなのだ。経線にノースマークを合わせれば、当然偏差があればその分のずれがでる。日本のように西に偏差があれば、この赤い目盛りのWと書いた側に偏差の角度分だけ戻した位置で磁針を合わせる。そのようにして偏差を修正するのが、現在のシルバの考え方のようだ。
これは、1・2・3システムが北欧ではうまく機能するが、他の地域では役に立たないことが多いように、北欧中心の考え方である。実は北欧は偏差がほとんどなく、経線がほぼ磁北に相当しているのだ。だから、実は磁北線と経線の区別自体、あまり意識されていないのかもしれない。しかし、それ以外の地域の多くでは、偏差の修正が必要になる。人間の目は平行かどうかの判断はかなり小さなずれでも容易に検知できるが、7度を指しているのか8度を指しているのかは、かなり意識して目盛りを見ない限り見逃してしまうだろう。小さなずれかもしれないが、本来1・2・3システムが最大限の威力を発揮する場面で、その精度を下げる結果になりかねない。
さらにややこしいのは、オリエンテーリング用地図のように偏差が修正された磁北線が引かれている場合だ。「経線はどこ?」「ノースマークをどこに合わせればいいの?」初心者からそんな疑問が出てきてしまうかもしれない。
この解説書は、日本語も含む14カ国語の解説がついていた。これがそのまま日本に入ってくるのか、日本の実情に合わせた解説書に改訂されるのかは興味あるところだ。指導の現場にいるものとして、注意深く見守る必要があるだろう。