コラム18 被験者になる

普段研究者として、他の人に被験者になっていただく立場にある自分が、被験者を経験した。それも、自分が専門とする読図の分野である。2回前のコラムで紹介した。関西大学の青山先生の実験の被験者となったのだ。読図講習会を主宰する身だが、果たして自分の読図力が、初見の場所にどの程度通用するのだろうか。そんな興味もあっての被験者応募であった。

 

福知山線のある駅をスタートとする里山の複雑な地形が舞台である。青山先生の後を歩きながら、ところどころ止まった場所で、現在地がどこであるかを1:25000地形図の上に記すのが前半の実験である。最初のうちは、課題の要求がどの程度のレベルか分からないし、普段オリエンテーリングをするときと違って、青山先生が「ここです」というまで地図を見てはいけないので、普段は経験しないほどの記憶負荷がかかった。自負もあるので、目茶苦茶緊張もした。二人してだまりこくって歩くのも気詰まりだから、会話をしながら歩くのだが、これがまた認知的負荷になる。女性は「方向音痴」を自称する人が多いが、会話による負荷もその一因なのではないだろうか。

 

興味深かったのは、「コンパスは見てもいいんですか?」という問いに「ええ。ここでは許しても許さなくても差がないという結果が出ていますから」という答えだった。視界のよくない、尾根・谷の方向がしばしば変わる低山では、コンパスは現在地を絞り込む非常に重要な道具だ。その道具を使う/使わないで成績が変わらないなんて、本来ありえない。たぶん、ほとんどの人が「コンパスは可能性絞り込みの道具」ということを分かっていないのだろう。

 

後半になると、山塊全体の配置もなんとなく頭に入り、また地形のくせも分かるようになったので、楽に歩けるようになった。まだ正式な結果は教えてもらっていないが、まあ恥ずかしくない結果は出せたようだ。

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