コンパスの解説書を叩いたついでに、アウトドア用GPSも叩いておこう。30年のタイムラグ、アナログ用具とデジタル機器の違いを超え、現在のアウトドア用GPS装置のマニュアルは、往時(そして今もか)のコンパスの説明書が犯した誤りを犯している。
「これをつけていれば道に迷わないんだ。」腕時計型GPS受信機であるスントのX9のビデオマニュアルで、登場人物がこのように言う。言葉のあやといえばそれまでである。だが、GPSの仕組みを知らない人がこの言葉を聴けば、GPS受信機さえ持っていれば、山で迷わず行動できると考えてしまうだろう。
だが、カーナヴィゲーションと違い、アウトドア用GPSにはそこまでの機能はない。カーナヴィゲーションにそれが可能なのは、詳細な地図とルート検索機能、ルート誘導機能が組み込まれているからである。一方、アウトドア用のGPSでは、現在地を地図上にプロットした後は、ルートを判断したり正しくルートをたどっているかは、人間が判断しなければならない。確かにトラックバックやウェイポイントに向かうナヴィゲーション機能はある。しかしトラックバックは、実際に歩いたルートを戻る場合に限って有効であるし、ウェイポイントへのナヴィゲーションも、ウェイポイントに向けての直進方向と距離を指示するだけで、そこに至る道を示してくれているわけではない。コンパスに直進機能があっても、直進方向に進めなければ意味がないように、GPSがいくら目的地の方向と距離を示してくれても、その方向に進めないのでは意味がない。
X9のビデオマニュアルでは、道の分岐で目的地に向かう道を選択する場合、GPSによって示される目的地の方向を頼りにする記述が見られるが、これも迂回的なルートの場合には誤った道を選択する可能性があり、ナヴィゲーション方法としてはかなり信頼性が低い。
今回のコラムでは、手元にあったX9のマニュアルの記述を取り上げたが、他のハンディーGPSも似たりよったりである。自由に通行できる荒野ならいざ知らず、日本の山野では、直進によって目的地の方向を示すウェイポイントナヴィゲーションは、限られた有効性しか持たないのだが、その点を明確に示したGPSマニュアルはほとんどない。
誤解ないように付け加えれば、私はだからGPSは有用ではないというつもりはない。むしろ限られた用途であっても、GPSにしか達成できない優れた機能があると思っている。それだけに、適切な使用法を提示しないがために、その真価が発揮されないこと、それによってアウトドアの真の安全が確保されない現状は、早急に改善されなければならないと考えている。