静岡のあるアウトドアショップと共催で、読図・ナヴィゲーション講習会を開催した。私の勤務する大学の山岳部の学生も含めて20人を越える盛況であった。
講習会参加者のキャリアは様々である。ほとんど経験のない初心者も少なくない。その多くは、「尾根って?谷って?」地形の基本的な単位さえ識別がおぼつかない。彼らの多くは山岳会やクラブに属しているわけではないので、必要性は感じていても、読図スキルを習得する機会がないのだろう。確かに、有名な山ではルートも道標もしっかりしている。読図スキルがなくても、迷うことは少ない。だが、低山・里山に出かけると、地図にはない道も多く、読図スキルが必要になる。そこで、講習会に参加した、と言う人もいた。
講習会では、簡単に山岳遭難とそこに占める道迷いの状況を解説した後、読図の基本について解説する。読図スキルを身に着けるためには、実体験が欠かせない。だがそれと同時に、何を読み取るか、それをどう使うかを明確にしておかないと、せっかくの実体験も生きない。私の講習会では、たいていの場合、机上と屋外を組み合わせて実施するが、その両方を組み合わせる講習は、評価が高い。
机上講習では、風景写真と地図を見せながら、「どこから撮った写真でしょう?」という問題を数多くやる。ナヴィゲーションの中で現在地の把握は基本中の基本である。読図もそのために必要なのだ。「どこから撮った写真でしょう」問題をやると、ただ地図記号が分かるだけではだめで、風景から特徴を読み取ったり、風景と地図を交互に比べながら、さらに情報を読み取ったり、論理的に考えるという、ナヴィゲーションに必要なメンタル・スキルが意識できる。参加者の反応からは「難しい」と感じられていることは間違いないが、「現在地を把握する」という明確な目的があるので、しっかり取り組んでくれる。正解が出なくても、その難しさを実感してもらうことが重要なのだ。野山の中で道に迷ったときは、もっと難しい状況なのだから。
実際に山の中を歩きながらの現在地把握も、やはり難しい。尾根・谷を勘違いしたり、だいたいの場所は示せても、「ここ!」とピンポイントで示せない。それに対して、「ピンポイントで示せなければ、ルート維持にも影響する。針でつつくように、示して!」と促す。その際、等高線のちょっとした曲がり、植生情報などが利用できることも、参加者にとっては新鮮なようだ。
アウトドアの安全はもちろんだが、私自身はそれ以上に地図を読み込み、地形が分かることが楽しい。読図講習会を通して、山歩きのもう一つの楽しさを広げていきたい。