山岳での道迷い遭難の多さ、あるいは講習会での経験から、多くのアウトドア活動者が適切に地図を使うスキルを持っていないのではないかと思います。最近Spatial=Cognition and=Computationという空間認知の専門誌に掲載された記事に、それを裏付ける実験結果が載っていました。
この実験はアメリカの自然公園で行われたフィールド実験で、36名の被験者を対象に、地図を使って公園のトレイルをたどってもらうという実験でした。実験のもともとの趣旨は、「等高線地図」「レリーフ地図」「概略図」の3種類と「多色刷り」「白黒」の効果をみようというものでした。この実験、結果として上記の地図表現自体の差はでなかったという点で実験心理学的には面白くなかったものの、アウトドアの地図読みに関心を持つものには興味深い結果が、いくつも記述されています。
たとえば、実験に使われたルートは10箇所の分岐がありますが、平均正解数は8.25でした。つまり平均して1.75回は曲がり方を間違えている。また9名の被験者が3回以上の間違いを犯しています。なかには6回も間違えた被験者が2名もいました。また、もっとも正解率の低かった4番目の分岐で、「どこにいるか分からない」と答えた被験者は9名、「分岐6だと思った」と答えたのが7名でした。私も、かねてから登山道・ハイキング路には、地図にないわき道が多く、そこではよほど地図を読む能力がないと道を間違えかねないと指摘してきました。実際上記の10の曲がりのうち、地図にないわき道がある分岐は3つで、そこだけ見ると間違いの割合は3割にもなります。比較的わかりやすいと思われる公園内の園路でさえ、これだけの間違いが発生するのですから、一般のハイキング路では、道間違いのリスクはさらに高いでしょう。
もうひとつ問題なのは、迷っても意識できていない人、その逆の人がいることです。自分は迷っていないと答えた7人のうち2人が実際には曲がり方を間違え、逆に間違えていないのに間違えたと判断した被験者が3名いました。迷っているのに、それが意識できないのも論外ですが、その逆も、正しい対処法を知らなければ、問題です。正しいのに別の場所にいると思うことで、より困難な状況に陥ることさえあります。
余談ですが、この研究では男女差はほとんどの項目に見られていません。一般的には女性は地図が苦手と思われていますが、他の研究結果は一貫していません。女性の方にも是非地図に親しんでほしいものです。
本論文の書誌を掲載します。理論的志向の強い研究の多いこの雑誌の中では、泥臭い研究です。その分、当分野に興味がある人なら、一般の人でも興味深く読めるでしょう。
Soh, B. K., & Smith-Jachson, T. L. (2004). Influence of map design,=individual differences, and environmental cues on wayfinding performance. =Spatial Cognition and Computation, 4, 137-165.