■ロゲイニング、装備とナヴィゲーション記録
ロゲイニング世界選手権も3回目。24時間ロゲイニング、そしてナイトナヴィゲーションについても、ある程度の方法論が確立しつつある。自分自身の覚え書きとして。そしてこれから世界選手権を目指すひとのためのヒントとして。
1.プランニング
フルロゲイニングのルート検討時間は2時間30分。たっぷりあるが、考える要素もたくさんある。まずは得点配置の把握、その後自分たちの想定移動距離と大きな行動プラン(何回ハッシュハウス(HHに戻るか)を考え、大まかな周り方を検討する。それがスタート時の装備にも影響する。
私たちのチームは、過去2回、異なるテレインながら、いずれも95-100kmをカバーしている。今回田島のトレーニング量の不安、過去2回より天候がよく暑いことなどを考えて80km相当をカバーすることを想定する。HHその他で休憩する時間を考えると、正味の移動時間はだいたい20時間強なので、前半の移動スピードは概ね4-4.5km/時、後半は3-3.5km/時。これは過去2回の移動スピードとほぼ合致している。HHに戻る時間帯は、これまで通り24-2時を想定する。その結果前半ループは50km(ただし、ペンでラフに測った距離)、後半はおそらく20-25kmとなるのだろう。
道の構造や得点配置によってエリアは、概ね北東、北西、西から南の3エリアに分けられる。北東が約27kmで1020点、北西が約24kmで740点、西(南まではいけない)が概ね24kmで1010点。しかも西(から南)のループは大きいので、長い移動距離が可能な前半ループに適している。これで、前半12~14時間で西(から南)ループ、後半で北東ループ、という大まかなプランニングができる。
西ループは入り方や途中の周り方でもいくつものバリエーションが取れる。点数の比較的高いCPや、どこでナイトに入るか(7-8時間と見て25km程度か)などを考えながら、周り方を考える。ここでは特に迷うような部分はなかった。
2.装備
1)食料
食料については、山本先生の公式を参考に、1時間あたりの消費カロリーが300kcalと考え、24時間で約6000kcal強と考えた。行動中およびHHでの摂取でその半分程度をカバーすることにする(内容と量については、むしろ経験によるところが大きく、結果として半分カバーしたというのが本当のところ)。
前半(途中HHに帰るまで)の食料は、いかくん・柿ピー(計400kcal)、ジェリー2個(360Kcal)、コンデンスミルク1本(350kcal)、バー4本(約700kcal)、現地で購入したミニマフィン3個(300kcal)。最初のループはペースがつかめないので、帰還時間は遅くなることが想定される(たいていそうなる)。量がこれでいいかは少し不安に感じる。
実際には、最初のループに要した時間は16時間を超えていたので、これでぎりぎりの感じだった。りかちゃんからα米を半分くらいもらって、最後の空腹をしのいだ(このペースならそれほど空腹感も強くなかったが)。
ループ後のHHでは、パスタ軽く一皿、シーフードヌードル半分、ポテトドッグ2本で、トータルの摂取カロリーはたぶん1000kcalくらい。
後半は、移動時間も短いことも分かっていた(6:40にリスタートしたので、約5時間半)し、前回の経験から、あまり食料はいらないだろうと考え、バー2本とドッグパンで作ったサンドイッチ2本、さらにジェリーを2本持った。これで十分で、ジェリーは丸ごと残した。サンドイッチは、あまったドッグパンとポテトサラダで急遽作ったが、味も適当で、食べやすかった。遅いペースのロゲイニングでは、人工的なものより自然の食料のほうが疲れてきても食べやすいかもしれない。
2)水分
水は推奨が2Lだが、昼間暑いことを考えると、それ以上に必要だろう。2L+ボトルで700mlを考えていたが、前半3-3.5時間でWSに寄れることが分かったので、スタート時の水を1L(+予備700ml)に減らした。
WSまでの行動時間は予定通りだった。かなり暑く、積極的に飲んだつもりだったが、1Lほどしか使わなかった。まあ公式通りだ。その後も渇きは癒えないので、積極的にちびちび飲み続けた。WSでは一気に250mlくらいのんだ。その後無給水を心配して、ハイドレーションはぱんぱん2Lとボトルにゲータレード700mLを1本持ったが、夕方以降は気温も下がり、水の消費も減り、2L強の消費に収まった。あと約10kmをHHまで歩いて帰るところにWSがあった。念のため、少し(500ml)給水したが、道路を歩くだけだったので、ほとんど消費しなかった。
後半ループはたぶん1.5L持ったが、これも半分程度の消費。HHでは、コーヒー、ヌードルなどで、たぶん600mlの水分を取っている。
今回珍しくスポーツドリンクを予備ボトルとして持った。思いっきり薄くしたスポーツドリンクは疲れてくると悪くない。WSの水はポリタンク臭がきつく、もっと胃腸が疲れたら飲めなかったかもしれない。粉末を持って行けば、WSでの給水に入れることができただろう。実際にそうしているチームも見た。
3)ウェア
一時的な雷雨の可能性があることを除けば、連続降雨はないことが予想されたので、ウェアは以下の通り。
スタート時に来ていたのは、ラピッドシャツ半袖(Trimtex社。速乾性があり涼しいが、寒くなりやすい)。下は長タイツ。それに薄手のウィンドブレーカー、長袖で織りのあるアンダー用ポリシャツ(Craft社性)、ゴアのアクティブシェル上のみ(下は、ザックの重さに抵抗感を感じて、スタート直前においていくことに決めた)。それにバフ。暑いので手ぬぐいを帽子代わりにした。
夕方からウィンドブレーカーを着て、さらに寒くなったので、下に長袖ポリシャツを着た。最後の3時間くらいはそれでも寒く、ウィンドブレーカーをアクティブシェルに代えた。これで動いている限り寒さは感じなかった。夜は手ぬぐいをバフに代えた。
気温は日中26度で、日なたでの実際の温度は30度くらいだろう。夜はたぶん15度以下(息が白くなる程度で、手先も寒いが我慢できる程度。
2周目のスタート時は、日の出間近で。スタート時は、下にアンダー用長袖ポリシャツを着て、その上にラピッドシャツ、さらに薄手のウィンドブレーカーだったが、ウィンブレはすぐに脱いだ。8時になったら、ラピッドシャツ1枚で十分。
4)装備
必須装備としてホイッスル(ザックについている)、コンパスはハンディーコンパスとプレートコンパス(プレートコンパスは、長く難しい直進時と地図上の距離計測に利用)。ライトはハンドライトとヘッドライト(ジェントス200ルーメンのもの)。これはかなり明るいが10時間持つという仕様書の記述だが、4時間すぎるとナヴィゲーションには不十分でハンドライト併用。)その他に緊急用として絆創膏類、エマージェンシーシート。ザックはマーチンウィング16LとOMMのAdventure45+10を用意したが、田島の分の衣類や一部の水を持つことを考えるとさすがに16Lでは足りずOMM Adventure45+10を使用。背中の(かなり重い)パッドは外して、バンドで締めてできるだけ小さくした。走らないならこれでも十分かも。
2周目は装備も少なくなったので、マーチンウィング16Lに代えた。
3.ナヴィゲーション
1) 基本的な考え方
ロゲイニングのCP位置は大きな地形上に置かれるのが通例で、見かけは決して難しく感じないが、藪も描いていなければ、等高線も10mで非常に大まかな地形しか表現されていない。従って組織的な方法で、位置が曖昧になるリスクを常に踏まえて行動しなければならない。
実際には、与えられた地図では読み切れないような小さな複数の地形の中にCPが置かれたりしていた。また、森は松の低木による藪で見通しの悪いエリアと、比較的開けた森に分かれていたが、地図だけでは、これから行く場所がどちらかを判断することはできなかった。従って、基本的には慎重に進む必要があると同時に、これまでの2回以上に「嗅覚」が必要であった。また尾根は幅が広いものが多く、注意を必要とした。昼間は地形的特徴のある場所ではラフコンパス、地形的な特徴の少ない場所ではファインコンパスと歩測を併用した。
夜間は、一度外すと、ヘッドライトの限られた情報では、リロケートするに必要な情報を得ることは難しい。動き回っても偶然に身を任すことになる。確実に分かるルートを取る、エイミングオフなどのプランを工夫するなどを考えつつ、「一撃必殺」を心がける。大きな地形が捉えにくい場所では、基本ファインコンパスと歩測は必ずする。
2)使える情報の特定とその活用
夜間は真っ暗で、ヘッドライトでの限られた視野しか得られない。それで、どうやってナヴィゲーションできるのか、いぶかしがる人もいるかもしれない。しかし、基本的に地図を使ったナヴィゲーションとは、どんなシチュエーションでも「限られた」情報でしかできないものだ。だから、夜でも利用できる情報は何か、という発想でプランを立てればいいだけの話しだ。ただし、夜でも利用できる情報は何か?は個人の特性にもよるだろうから、経験による裏付けは不可欠だ。
2004年以来のアドベンチャーレースとロゲイニングの経験からは次のような地形的特徴を利用することができる。①尾根にいるか谷にいるか、②斜面が下っているか登っているか、③(相対的に明るい)空と(相対的に暗い)地面によるスカイライン。
ただし、今回のように基本的に緩やかな斜面で構成されているテレインでは、①は直接的には把握しにくい。結局は②の組み合わせによって把握することになる。たとえば、尾根は横切る時、登りだった斜面が下りに転じることによってようやく把握できる。尾根線を目で見るだけで把握することはかなり困難である(一方、谷線は比較的把握しやすい)。昼間なら利用可能な尾根の分岐も、暗闇の中で緩やかである場合には、分岐を構成する側斜面の変化を見逃す危険性が高くなるので、基本的には使えない。
上記の原則に従うと、ナイトでの緩やかな尾根分岐の把握では、歩測とコンパスワークによって幾何学的に尾根の分岐を捉える必要が生じる。地図を含んだワードファイルに示した81へのアタックなどはその典型である。また、93→103は、歩測とコンパスでピークに上がる、ピーク(もとらえがたいがろうが)から直進して尾根に乗る(これはピークを、という考え方になる。
3) ルートを囲う
ミクロネシアのカヌイストたちは、島影も見えない海原を数百kmにわたって航海する。その方法の根幹にあるのはスターコンパスという星(の昇り、沈む方向)によるコンパスだが、もう一つ重要な概念装置にプープナパプナというものがある。これはルートを実在する(あるいはしない!)島によって囲い、その中を自分達が移動しているという考え方である。囲われていると認識できるからこそ、囲いそのものが見えなくても極度の不安に陥ることなく移動できる。彼らの心情はナイトナヴィゲーションをしているとよく理解できる。たとえば74から道に向かう時、どこにいるかほとんど分からなった。それでも不安なく進むことができたのは、進路が谷であり、谷筋そのものが確実に見えなくても、左右に登りすぎないかぎり、谷を左右に取り囲む尾根の中におり、進路の先には進路と直交する方向に伸びる道があり、これら3つの要素によってルートが囲まれていたからだ。
もちろん、最終的には囲まれた空間からCPという点の要素に自分の位置を絞り込まなければならない。点→線→面と拡大する現在地の曖昧さをどうやって→線→点と収束させていくか、そのためにどんな情報が利用可能かのか。これは昼のナヴィゲーションでも必要な発想だが、夜はとりわけそのための方法を組織的に使う必要がある。
以下のワードファイルは2014ロゲイニング世界選手権におけるTEAM阿闍梨のナヴィゲーションの解説です。